高脂血症について
2006.9


高脂血症とは?

以下の高脂血症の定義は古いものです。現在では、LDL-C(悪玉コレステロール)が140mg/dl以上、HDL-C(善玉コレステロール)が40mg/dl未満、中性脂肪が150mg/dl以上の状態を「脂質代謝異常」といいます。

最近ではメタボリックシンドロームとの関係から、高コレステロール血症という病名が抹殺されようとしています。要するに、悪玉コレステロールと善玉コレステロール、さらには中性脂肪のみ測定すればよいということです。このページ作者はさらに以下に述べるSD-LDLも測定すべきだと主張しております。

このページでは診断の便宜上、以前の日本動脈硬化学会の定める診断の基準を指標にします。空腹時に測定した血液中の総コレステロールが220mg/dl以上、あるいはトリグリセライド(中性脂肪)が150mg/dl以上、HDLコレステロール(善玉コレステロール)値が40mg/dl未満のものを高脂血症と呼んでいます。

日本人に多くみられる高脂血症(家族性のもの)は次の3型です。

1)総コレステロールだけが高い(IIa)

2)トリグリセライドだけが高い(IV)

3)総コレステロールトリグリセライドの両方が高い(IIb)

血液中の脂肪が高いからといって必ずしも直接症状につながるものではありませんし自覚症状もはっきりしたものはありません。つまり高い状態が長期間続くことによって起こる病気というものが問題になるわけです。その中で最も命に関係する重篤なものとして脳血管の病変や,狭心症,心筋梗塞などの冠動脈硬化性疾患があります。この発生率が,高脂血症でない人よりも非常に高くなるという問題がでてきます。最近の知見としてむしろ命に危険な血管障害は、食後高血糖状態が大きな意味を持つことが証明されつつあります。血液中の油という意味では、診断基準よりも以下のTopixの方が問題視されています。

Topix)

1)Small dense-LDL(超悪玉コレステロール

かつて悪玉コレステロールと言われていたLDL-コレステロールが実はそんなに悪者ではなかったことが証明され、一部の学者が唱えた悪玉という名前が不適切になってしまいました。

実際に動脈硬化を引き起こすのは小さくて比重の重いLDLコレステロールですが、最近になって「超悪玉コレステロール」と評されています。これは最近、はやりの代謝症候群と密接な関係を持ち、血液中の血糖値や中性脂肪値が高い人で、悪玉コレステロールのサイズがさらに小さくなって、肝臓で分解しにくくなります。結果として血管内に長期間とどまることで血管内皮に直接入り込みやすく、容易に酸化LDLとなって動脈硬化を引き起こします。高血圧状態、高血糖状態であればさらに動脈の硬化を促進させることとなります。

当院では電気泳動法によってLDLコレステロールの大きさをパターングラフで推測できますが、LDLコレステロールと中性脂肪値がともに高値の事例では、Small dense-LDLが高いと推測だけはできます。何れにしてもSmall dense-LDLが高い状態は薬物治療が絶対に必要なわけです。

どこの医療機関でもどこの検診機関でも、早く測定できるようになり、早くエビデンスが確立することを願っています。

2)必須脂肪酸(ω3系とω6系について)

1970年代にはリノール酸が血中コレステロールを下げるということで大人気でしたが、現在は油の摂り方が変わってきたので、今はω3系が絶対的に不足しています。実はリノール酸は善玉コレステロール・HDLも一緒に下げてしまうということが分かっています。言い換えますと、現代人の食生活はリノール酸のようなω6系が多過ぎることが問題なのです。この2種類のバランスが重要であるということが分かってきましたが、私たちの体の細胞膜やホルモンをつくる原料である必須脂肪酸はとても酸化されやすいので、変質油になりやすいのです。結果として、中でも安定性のいいω6系を私たちが多く摂るようになった原因です。

ω3系はα-リノレン酸、EPA、DHAに代表され、とくにEPA(アイコサペンタエン酸)はイワシのような匂いがあります。これに対してω6系はリノール酸、γ-リノレン酸、ジホモγ-リノレン酸、アラキドン酸を含み比較的匂いは軽いのですが・・・・昔の『番傘』の特有の匂いがω6系の多価不飽和脂肪酸の酸化した匂いです。油絵の具に使われているのもこれで、直ぐ酸化して固まってしまうので乾性油という分類のされかたもあります。

必須脂肪酸は、人のからだが作ることが出来ない脂質で、かつてビタミンF(FはFatの頭文字)と言われた時代もありましたが、1日に必要な量がビタミン類のようにミリグラムやマイクログラムのオーダーではなく、数グラムレベルで必要なものですから微量栄養素としてのビタミンの仲間からは外れました。

ω6系脂肪酸が著しく過剰になると、体内で凝固機能が亢進し、炎症を起し、痴呆症、知的障害、前立腺肥大などの原因になるといわれています。

ω3系脂肪酸は魚と野菜から摂りましょう。

この必要量は週2回ほど『青魚』を食べれば十分だということになっています。青魚とは背の青い回遊魚のことで、イワシ、サバ、ニシン、ブリ、カツオ、マグロ、サケなどのおなじみの魚です。キャノーラオイル、クルミ、フラックスシード(亜麻の実)などにもω3系は含まれています。さらに血液を固まりにくくする働きがあるので、心臓病の多いアメリカではサプリメントとして取ることがあります。1日3グラム以上ω3系を取る場合は医師のチェックが必要だとFDA(アメリカ食品医薬品局)は注意を促しています。

人によってはサラサラの度を超して出血が多くなることが起り得ます。アザラシを主食にしたエスキモーたちの死因の多くが脳出血であったことからも分かります。ω3系脂肪酸のさらなる作用として中性脂肪を下げ、血圧を安定させて血管を丈夫に健康にしてくれます。特に血管に問題を持つ糖尿病のある人にはとてもありがたいものです。 その他ω3系の効用として必須脂肪酸のバランスを整え、健康な免疫反応のバランスを助けます。関節や軟骨の健康、美肌、健康な心臓機能、健全な中性脂肪値の維持、正常な心拍リズムの促進、血管保護、神経系や脳の機能促進、うつ、アレルギー、炎症を抑えるなどの多才な効能があると言われています。

3)トランス型脂肪について(自然界に存在しない脂肪酸を摂ってもいいのか)


マーガリンやショートニングに含まれる主な脂肪酸は、トランス型脂肪酸です。しかし、天然に存在する油に含まれる脂肪酸はほぼすべてシス型の立体構造をしています。これに人工的に水素添加をしたためトランス型という立体構造をもつ天然には存在しない油ができます。

この水素添加によりシス型脂肪酸の結合をトランス型に変形した脂肪酸を取り入れることで、融点が上がり、室温においても固形を維持できるようにしてあります。「水素添加作用」ですが、金属触媒を用いて、約260℃の高温で処理すると、シス結合の約半分がトランス型にかわり、この過程で触媒に用いたニッケルやアルミなどの金属までもが混入することもあるようです。

水素添加された油は自然の油と異なり、すぐに腐ったり(酸化されたり)、嫌な臭いを出したりしないため、広く普及し、多くの加工食品(クッキー、クラッカー、アイスクリーム、パン、ケーキ、コーヒー用フレッシュ、レトルトカレーなど)に多量に使用されています。

ほとんどの人は1日に、こんな有害なトランス型脂肪酸を体にいくらか入れていることになります。また、缶入りのベニバナ油やコーン油などの植物油も高温で処理されていると、その一部がトランス型脂肪酸に変性している可能性もあります。そのため、マーガリンを調理に用いて、加熱調理をすると、トランス型脂肪酸をさらに増加させる原因ともなります。もし、マーガリンを使用するなら、かつて体に良くないと言われた飽和脂肪酸のバターの方が健康には良いというのは実に皮肉なものです。マーガリン(欧米の許可されたものでも約10%のトランス型脂肪酸が含まれ、日本では30%を超えるものもあります)やショートニングをたくさん含む加工食品などを買わないことが健康維持には重要となるようですが、動脈硬化を一番に考えないといけない子供たちに多く与えている親の顔が見たいと・・・・・・言えますね「。

油を加熱したり、繰り返し利用で発生するトランス型脂肪酸はごくわずかな量のようで、シス型脂肪酸を調理する限り家庭での普通の使用では問題とならないようですが、トランス型脂肪酸が健康に良くない理由は、腸管を構成する細胞の細胞膜に取り込まれると、本来のシス型脂肪酸と立体構造が異なるため、細胞膜のところどころに隙間ができてしまいます(体内で処理しようとしてもできないため、シス型と同様に処理された結果、生じる障害)。トランス型脂肪酸が体内に多い場合の腸壁には大きな分子を吸収することができる穴があいていると考えられ、これがアトピー・アレルギーなど最近の現代病(他には、糖尿病・脳梗塞など生活習慣病、クローン病(腸管壁の細胞が壊れている状態で、体に有害なものがどんどん入ってきて炎症を起こし、潰瘍ができている状態)、自律神経失調症など)を引き起こす要因の1つと考えられます。

4)発ガン性が危惧される子供の大好きなアクリルアミドについて

2005年3月7日 フライドポテトなど炭水化物が多い高温加熱食品に副産物として含まれる化学物質アクリルアミドについて、国連食糧農業機関(FAO)と世界保健機関(WHO)の合同専門委員会は6日までに「健康に有害な恐れがあり、食品の含有量を低減させるべきだ」とする勧告をまとめた。
アクリルアミドを減らす努力が特に重要な食品としてフライドポテト、ポテトチップス、コーヒー、パン、トーストなどを挙げた。同じ食品でも調理時間や温度により含有量は異なるため、専門委は「どの食品は、どれだけ食べても安全か」との勧告は現時点で不可能とした。

WHOでもこれが最終結論としているわけでも、絶対的強い発がん性といっているわけではありません。むしろ、アクリルアミドの発ガン性は人でははっきり証明されていないと述べています。しかし、動物実験では発ガン性ははっきりしていますので、可能性は十分に高いと述べています。アクリルアミドはでんぷんを120度以上に加熱すると生成されます。しかし、その生成条件と結果としての含有量はまだ研究途上です。

このため、蒸す・煮るの調理では生成されないと考えられますので、米食は大丈夫でしょう。

問題は、揚げる行為とオーブン調理です。120度を超えるからです。従って、トースト・クラッカー・クッキー・ポテトチップス・フライドポテト・ケーキ等が問題となります。

詳細はここに記載しております


疫学調査

以前より行われてきた疫学調査では以下の諸事実によって,血清総コレステロール値と冠動脈疾患が強い関係をもつことが示されてきました。

1.)第一次ならびに第二次世界大戦の食料不足で西欧諸国の冠疾患患者が減少した。

2.)食事脂肪の多い国で血清総コレステロール値の水準が高く、冠疾患の死亡率が高いことが示された。

3.)血清総コレステロール値と冠疾患の間には直線的比例関係がみられた。

4.)日本人の本国在住者とハワイ、アメリカ本土移住者の血清総コレステロール値と冠動脈疾患の発症率をみると日本人の海外移住者で高い

5.)心筋梗塞患者のLDLコレステロール値がさほど高くない例でみると、HDLコレステロールが低い例が多いことが見出され、HDLが“負の危険因子”であることが明らかにされた。

6.)食事療法と薬剤の併用によって血清脂質値を改善すると、血管造影で動脈硬化が退縮することが確認された。

7.)ある種のコレステロール治療薬を高コレステロール血症患者に7年間投与した研究で、LDLコレステロール値を1%低下させることができれぱ、虚血性心疾患の発症は2%減少するという定量関係が明らかにされた。

このような疫学的な検討で血清コレステロールの異常は冠動脈の動脈硬化性疾患に悪影響を及ぼしていることと、治療によってある程度、疾患の発症を予防できることが解ります。HDLコレステロールは動脈硬化を防ぐ作用があると考えられますので多い方が好ましいので、善玉コレステロールとも言われます。small-LDLについては疫学的なデータがないので今後の研究に委ねたい。

リポ蛋白について

リポ蛋白という言葉は聞き慣れない言葉ですが、脂質であるコレステロールやトリグリセライドは疎水性であるため血液中では水と油で存在できません。血液中では、特殊な蛋白質と結合して親水性を持った構造になる必要があります。このコレステロールやトリグリセライドなどの血清脂質に蛋白質が結合しているものリポ蛋白と呼んでいます。これは電気泳動で分子量によってカイロミクロン、VLDL、IDL、LDL、HDL-コレステロールなどに分けられます。このうち動脈硬化に直接影響をすると考えられているのは後で述べるLDL-コレステロールですし、HDL-コレステロールは動脈硬化の改善に作用すると考えられています。日常の診療では血清の総コレステロール、トリグリセライド(中性脂肪)、HDL-コレステロールを測定すればぼぼこれらのリポ蛋白の状態が把握できることになります。

高脂血症の動脈硬化病巣形成への関与

動脈硬化の始まりは,血管の内皮細胞の障害に始まると言われています。血管の内皮細胞が障害をうけると内皮細胞には正常では起こらない血小板の凝集や単球等がくっついてきます。これらは血管の平滑筋細胞に作用して、さらに増殖因子の作用を受けて活発に増殖し細胞内に脂質を蓄積させ,ついにはコレステロールに富む細胞を形成します。このような取り込み機構は,ついには細胞の崩壊をきたし、細胞間に脂肪を漏出し、線維成分の増生がみられ粥状硬化と言います。さらに進行するとカルシウムの沈着がおこります。これが動脈硬化です。このような一方的な動脈硬化巣の形成ばかりではなく、抑制という機構としてHDL (高比重リポ蛋白)を介した逆転送、すなわち細胞からコレステロールを抜き取る作用もはたらいています。

検査時間の問題

血清総コレステロールとHDLコレステロールは、食事による影響はあまり受けません。したがって、それらを測るのであれば、午前でも午後でも、食事前でも後でもかまわず、補正の必要は殆どありません。

しかし、トリグリセライドは食事による影響を大きく受けますので、基本的には空腹時(基本的に12時間以上の絶食状態が必要)での採血が必要となります。トリグリセライドはまた、LDLコレステロールを計算するために必要になります。(LDLコレステロール=血清総コレステロール−HDLコレステロール−1/5Xトリグリセライド)

正確なLDLコレステロールを得るためにも早朝空腹時採血が望ましいのです。計算で算出したLDLコレステロール値の正常範囲は55〜130mg/dlとされています。

トリグリセライド以外に、血糖値なども食事により影響を受けますので、採血の時間には注意が必要です。とくに前夜にアルコールや多量の油ものを摂取したり、あるいは遅く食事をすると同じように強くその影響を受けます。従って採血日前日のアルコールや過食を禁止し、早朝空腹時での採血が基本となります。

高コレステロール血症の治療開始

総コレステロールの治療開始値は,日本動脈硬化学会では220mg/dlというところに線を引いていますが,理想値を総コレステロール値180mg/dlという低いところに設定する人もあります。

が、先般述べたとおり総コレステロールという数値や概念が無くなっております。LDL-コレステロールが高くなるにつれて,動脈硬化性疾患のリスクが加速度的に増えていると考えられるわけですから,やはり高い人にはできるだけ早く何か手を打って,実際に動脈硬化,さらに虚血性心疾患や脳梗塞などの発症をくいとめることが大事なのではないかと思います。

いずれにしても糖尿病や心臓疾患などの合併症のある場合LDL-Cを120mg/dlに、合併症のない場合は140mg/dlになるように治療目標を考えてよいと思います。

ちなみに、ページ作者は、高コレステロール血症をみた場合、HDL-CとLDL-Cを確認しまず。食事療法を2ヶ月間続けても尚、LDL-Cが140mg/dl以上なら、薬剤治療に踏み切ります。家族歴や大血管症(心筋梗塞や狭心症)を持つ場合は初診でコレステロール薬を投薬することもありますが、初診で総コレステロール240mg/dlを見てすぐにコレステロール薬を処方する医師は100%素人と考えて間違いありません。

高脂血症の治療

高脂血症の治療の基本

1)食餌療法:

これを行わない高脂血症の治療はありえません。それと肥満などがあれば運動療法を併用します。食餌療法や運動療法の基本は長続きすることが必要ですのであまり最初から食事の内容を極端に制限しても長続きしませんし、神経質になりすぎると必要な栄養素がとれなくなります。少し不十分でも長続きできるようバランスさえよければ何でも食べて良いと考えて下さい。但し一日の摂取カロリーは押さえる必要がありますので、高脂血症の人は今まで食べていた量の8割、昔からいう腹八分で我慢するよう指導してみてはどうでしょうか。摂取カロリーの基本は標準体重1Kgあたり25-30カロリーです。標準体重(kg)は身長(cm)から100を引いた値です。たとえば身長160cmの人では60Kgとなりこの人の1日摂取カロリーの基準は60x25-30=1500-1800カロリーとなります。もちろん年令や仕事の内容、高脂血症の重症度によって増減されます。詳しい食事の内容が知りたい方には栄養指導を行います。

植物性の油はとくに禁止はしないのですが、前述したとおり国産マーガリンは動脈硬化を引き起こす恐れがあるので、ショートニングも含めて、あえて食べないように!(マーガリンは毒物)特に子供達が好んで食するクッキー、ケーキにも使わないようにするべきです。マク○ナルドに代表されるファーストフードも日本では子供には食べさせないことが健康につながります。

2)薬物治療:

家族性の高脂血症や重症の高脂血症では食事のみでのコレステロールの低下は限度がありますので薬物による治療も併用します。最近ではコレステロールを低下させる薬も多くありますのでそれらをその人の状態にあわせて使用します。これらの治療は若年や中高年の高脂血症の人にはすぐに始めるべきですが、高齢者でも今後の動脈硬化の伸展予防や退縮を期待して行うこともあります。いずれにしろあまり自覚症状がない病気ですから中途半端にならないよう、また異常が改善されたら維持するように心がけたいものです。

高脂血症の治療薬剤は数多くあるのですが、実際に多く用いられているのは以下のお薬です。これだけ覚えておけば殆どの医師に対応できます。

スタチン系薬剤------- メバロチン、リポバス、リピトール、リバロ、クレストール

フィブラート系薬剤-------- ベザトール、トライコア、

ω3系薬剤----------- エパデール


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