かしこい
医療機関受診のコツ
2005.7


診療所への上手なかかりかた

出来るだけ効率よく無駄な時間や無用のトラブルや誤診を避けるために以下の準備をお勧めします。まじない・祈祷時代の医療と違って現代の医療は「科学」です。いい診察、いい検査、いい治療を受けるためには患者さんの側にもある程度の知識や努力が必要です。

診察とは、患者の訴えから異常を見つけ出し、必要と思われる検査を実施して、より客観的な診断の根拠を得るための重要なステップだからなのです。

当院の近郊におかしな医療機関があります。患者さんが医師の前に座れば、診断があたり、検査をせずとも「手かざし」で難病を治すという噂です。私は医師であり科学者だと思っていますので、このようなまじない医療は信用しません。まさに行列のできる診療所ですが、医師にしておくより占い師の方がもしかして人の助けになるのではと思います。人生相談なら見てもらってもいいですが、少なくとも病気になったら行かない方がいいでしょう。

医学は科学です。医師も人間です。これをふまえて当たり前の医療の受け方をアドバイスいたします。

1 自身の病歴の整理(アレルギー歴も含めてメモしておく)

2 複数回の診察を受けることが大切

3 必要ないと思った症状でも正直に打ち明ける

4 医師と患者さんの関係について

5 医薬分業の医院(診療所)が望ましい

6 セカンドオピニオンについて


1 自分の病歴を整理しておく

病気の経緯を病歴といいますが、病院にかかる前に自分の症状を出来るだけ分かりやすく整理しておくと、診察がスムーズにゆきます。

「いつから」

「どんな症状が 」

「どれくらい続く」

「いままでどんな検査を受けたか」

「いままでどんな治療を受けたか」

「どんな治療が効いたか」

等を頭に入れておきましょう。(病歴・アレルギー歴も含めてメモが好ましい)


2 慢性疾患では複数回の診察を受けることが大切

風邪や湿疹ならば一回の診察で済むこともありますが、普通は検査をしたりその結果を聞いたり、ある程度継続した治療や経過観察が必要です。治療が中断すると、治癒が遅れるばかりか悪化したり手遅れにもなりやすくなることがあります。

症状の重さと病状の重さは大きく異なることも多いので必ず医師の指示に従って下さい。


3 必要ないと思った事態でも正直に打ち明ける

医師と患者の関係は、対等な立場です。医師の前に座ると必要以上に緊張して大事な事を医師に告げることが出来ないまま、診察を終えてしまう人がいます。これは患者自身にとってはもちろん、医師にとっても大変不幸なことです。聞かれたことはもちろん、「これは言っておいた方がいいな」と思う事は、必ず診察時に打ち明けて下さい。医師は出来るだけ情報を聞き出そうとはしますが、診察時間中は雑用が多く聞き漏らすこともあります。

できるだけメモを持って行き漏れのないようにお話されるべきです。最後は患者さん本人の姿勢にかかっているといっても過言ではありません。

患者さんが関係のないと思ったことのなかにも大切な情報が隠れていることもあります。正しい情報が無ければ、正しい治療も出来ません。「こんな事を言ったら叱られる?」とか、「こんな恥ずかしいことは言えない」特に他院にかかっていることなど隠しても得することはありません。患者さんの秘密を守る事も医師の仕事の一つですから。

白衣高血圧症という病気があります。普段の血圧は正常ですが、検診や医療機関でのみ高血圧状態になります。これも告知しない限り誤診に繋がる可能性が大です。


4 医師と患者さんの関係について

具体的なお話にしないと誤解を生じても困りますので、糖尿病医としての経験を踏まえてお話しします。

糖尿病という病気は、他の病気と異なりインフォームドコンセントにプラスして信頼関係を基礎にした新しい関係が必要です。「指導管理」というと一見、上下関係にも見えるのですが、医師と患者さんの関係に上下関係があってはなりません。医師は契約によって患者さんの治療内容に責任を持つ。患者さんは医師の指導を厳粛に守ることで契約を履行する。

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糖尿病専門医はたしかに、えらそうにみえるのは事実ですがこれは患者さんのためでもあるのです。あくまで指導形態に過ぎないのですから・・・・とはいうものの患者さんも変な指導に対して文句の一つも言い納得できるまで説明を受けるべきなのです。

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診察が終わった後で医師から患者さんへの「お大事に!」はまあいいとして、患者さんから医師への「ありがとうございました」はおかしいと思いませんか?

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夜中にたたきおこして往診してもらった訳でもないのだから・・・・日本語にてきとうな言葉がないのですが挨拶として変ですが、日本語であえて言うと「先生のいいつけを守ってやるよ!」「また来ますね!」くらいかな?・・・・・・・・


5 医薬分業の病院(診療所)が望ましい

もう忘れてしまったかもしれませんがソリブジン事件というのがありました。これは飲みあわせによる事故で、不幸にも犠牲者が出てしまいました。それぞれの薬は良い薬であっても、飲みあわせの相性が悪ければ事故につながるのです。医師は、他の病院でもらっている患者さんの薬を全て把握することは現実には不可能です。(自分の医院のお薬の飲み合わせについて把握するのがやっとです。)場合によっては、患者さん自身が薬の内容を知らない場合もあります。今後も高度な薬が益々増え続け、飲みあわせによる事故が多発するものと推察されます。

医薬分業はこれを防ぐ唯一の手段なのです。薬剤師は患者さん一人一人に「薬歴簿」というものを作成します。複数の病院に通っていても、かかりつけ薬局がひとつならば薬剤師が医師に対して指摘してくれるので、飲みあわせ事故は防ぐことができます。諸外国ではすでに常識になった医薬分業でも、日本ではまだ一部です。今後我が国でも分業が増えることが望まれています。多少費用が割高になるのも事実ですが、それに見合うだけの安全を得ることができます。


最近、同業者の私から見ても個人病院、中規模病院の金儲け主義が鼻につくときがあります。

1)白内障の手術の例、高齢者や、基礎疾患の重い人ならいざ知らず、日帰り手術が日常化しているのに3日以上の入院を強要する病院。

2)大腸検査の例、ポリープが見つかれば1泊2日の予定で切除する予定だったが、実際大腸ファイバーしてみると切除の必要がなかった。でもせっかく予約しているからと一泊入院させられた。ところが医療保険上、足かけ2日ですから2日間の入院となり個室しか空いていないといわれ数万円請求された。これが個人病院の大儲けの図式になります。

私たち末端の貧乏開業医には及びもしない悪知恵です。

このように、簡単な手術でさえ金儲けに繋げる病院が多いのですから・・・・大手術ともなれば何をされるかわかりません。やはり命に関わる病名を告知されたとか、全身麻酔手術を受けるときには、もう一軒の病院の医師にも意見を聞いてみるというのを「セカンドオピニオン」といいます。もし2つめの病院でも同じ診断や同じ治療法でしたら問題ないのですが、全く違った場合、サードオピニオンが必要になるかもしれません。そのためにも普段から「かかりつけ医」と上手につきあっておけば気軽に相談していい病院(病診連携を待合室に表示してあるはずです)を紹介してもらうことが得策ではないでしょうか?


大きな病院(大学病院、基幹病院)への上手なかかりかた

200ベッド以上の特定機能病院や基幹病院などの指定を受けている病院は、原則として紹介状を持ってゆかないと外来診療が受けられません。保険点数的に恩恵を受けているこれらの病院では、もし救急などで紹介状を持ってゆかないと初診料を自由に決定してよいことになっています。この多くは診療費プラス¥3000〜¥5000という余分な出費になります。これで開業医と同じ治療だとしたら無駄きわまりないですね。ここでかかりつけ医の紹介状を持ってゆくと希望する専門医の診察も受けられますし、紹介医との連携があれば専門医に直接診てもらえ、さらに詳しい情報が得られます。場合によっては大病院では検査だけ行って、結果はかかりつけ医で説明を受けるというように時間の節約にもなります。このように開業医を選ぶときには基幹病院と連携を持つ医師を選ぶことが大切です。

最近は大病院志向であると言われます。「大きな病院で診てもらわなきゃ」という風潮があります。確かに大病院には立派な設備が整っています。だからといって最初から行くと無駄な検査ばかりか希望した専門家にすら診てもらうのは不可能に近いのです。大きな病院では1つの診療科の中がいくつかの専門科に分かれています。その専門科の中はさらに狭い分野に分かれ、グループごとの診療にあたっていることが多いのです。大病院はスタッフも豊富ですが、そのぶん医師が専門化されていてホントに適切な診察が受けられるという保証もありません。数が多い分、不慣れなスタッフが多いのも現実です。

大病院は卒業して間も無い医師や看護婦の研修の場でもあるからです。医師の数こそ多いものの仮に飛び込みで受診した場合、自分の病気に対する専門医に当たる確率は相当に低いと覚悟しなくてはなりません。さらに大病院では万全を期する名目で様々な科をたらい回しにされ、3時間待ちの1分診療で次の科の受診時には既に他科の受け付けは終了しており、すべての科のスケジュールを終えるのに2週間以上を要するのが一般的です。専門科中の専門ゆえ病状の説明も非常に難解で、たとえ丁寧な説明でも理解するにはある程度の専門知識が必要になります。また投薬について、各科は独立して処方するため出された薬の飲み合わせなどのチェックさえもないことがある。(一部の基幹病院ではすでに対策が行われている)

ある患者さんが近くの調剤薬局で服用薬を見てもらって初めて内容のチェックがなされ、過剰投薬による副作用直前だった例も報告されています。特に患者さんは健康な人に比べてもお薬に対する許容力がないので、健康食品や漢方薬信仰をあらためて欲しいし、医療機関側でも薬の適正使用が求められているのが現状である。結論としては、大きな病院(大学病院)を希望する場合、必ずかかりつけ医に紹介状を書いてもらうことで直接に専門科の担当医の診察を受けることができるし、場合によっては待ち時間が短縮することさえある。しかも紹介医にも病状の説明があるため、専門的な病状結果説明が、かかりつけ医からも受けられるし、加えて治療内容のチェックも受けられるため、くすりの副作用の早期発見も可能になることがあります。大病院がその真価を発揮できるのは、難病やがん、それに特殊な治療を必要とする疾患の場合です。しかも大病院は診察から帰宅まで長時間を要します。朝から夕方までかかることも多くお年寄りや衰弱患者の場合、単なる風邪程度でで病院通いをすれば、最近話題のMRSAやO157といった難治病などの余病を貰ってしまい、命取りになりかねないでしょう。


追記(実際の診察室で)

診察室で、あなたの診察が始まりました。問診が大事ですが、以下の基本診察もさらに大事です。

1 視 診

視診とは、「目で診察すること」です。何の道具も必要ありません。医師はまず、診察室に入ってくるあなたの姿勢・歩き方から観察します。
【骨格が異常】
【運動神経・筋肉に異常がある】

椅子に座ったあなたの表情・顔色・目の色を観察します。
【栄養状態が悪い】【貧血がある】【黄疸がある】【表情が異常】

医師は、あなたに口を開けるように言います。
【のどが炎症を起こしている】【脱水状態である】

2 触 診

医師はあなたの症状に基づいて身体に触ります。
首にはリンパ節や甲状腺などの臓器がつまっています。これらの臓器が腫れていないかチェックします。
【リンパ節が腫れている】【甲状腺が腫れている】

また、おなかを触ることで、さらに重要な情報が得られます。正常なおなかは軟らかくて平らです。また体表から中の臓器を直接触ることができません。臓器が腫れてくると、身体の上から触ってわかることがあります。
【肝臓が腫れている】【脾臓が腫れている】【腹水がありそう】

手足を触れば、身体の水分の大まかな量がわかります。
【脱水状態である】【むくみ(浮腫)がある】

3 聴 診

ここで「聴診器」の登場です。
この器械で体内の微細な音を聞くことができるのです。胸の聴診では心臓・肺・気管の音を聞くことができます。
【心雑音がある】【不整脈がある】【呼吸音が異常】

おなかの聴診では、腸や動脈の音を聞くことができます。
【腸の動きが異常】【血流の音が聞こえる】

首や太ももの付け根で動脈の音が聞こえることがありますが、これは動脈硬化が進行したサインです。血管雑音といいます。
【血管雑音が聞こえる】

4 打 診

おなかや胸を「トントン」と叩く診察を打診といいます。
叩いたところのすぐ下に、なんの臓器があるかによって音が違います。下が空気(例えば肺や、腸(腸にはガスがいっぱいある))の場合、太鼓のような音が聞こえます。これを鼓音と呼びます。下が肝臓・脾臓・心臓など、空気のない臓器の場合には、濁音と呼ばれるくぐもった音が聞こえます。身体の表面から、臓器のおおまかなサイズや分布を知ることができます。
【肝臓が腫れている】【脾臓が腫れている】【心臓が大きい】

胸水や腹水がたまってくると、音が違って聞こえます。
【胸水がたまっている】【腹水がたまっている】
これらの情報は、レントゲンや超音波検査など安全・簡単・正確に知ることができるようになったため、今や「無形文化財」となりつつありますが、レントゲンを含めた検査に「査定」という足かせがあり医師の裁量が無視されている現在、このような基本が復権してきているのも事実です。

筋肉や腱を叩くと、ピクンと反射が起こりますね。これを腱反射といいます。
打腱器という専用のハンマーで筋肉や腱を叩いて腱反射を見ることで神経や筋肉の異常を調べることもできます。
【運動神経・筋肉に異常がある】
まだまだ神経内科領域では現役の重要な診察技術です。



医師の法律(資料抜粋)

「医師法」

『第一条 医師の任務は国民の健康な生活を確保することである。』

医師の仕事は病気を治療することだけではありません。国民の健康をトータルにサポートすることが任務なのです。このように法律に定められています。
「病気でもないのに病院に来るな」とは言ってはいけないのです。でも自民党の厚生労働大臣はじめ国会議員はこう言っていますね。

『第三条 未成年者や目・耳・口が不自由なものは医師になれない。』
『第四条 精神病者、薬物中毒者、罰金刑以上の刑に処せられたもの、医事に関する犯罪や不正の行為をしたものは医師の資格を与えられないことがある。』

まあ、当たり前ですね。もっと厳しくてもいいかもしれませんね。人の命を扱うわけですから、不正や犯罪を犯すような人では困りますね。

『第9〜16条 医師免許を受けた後も、2年以上、大学の医学部や付属病院、または厚生労働省の指定する病院での臨床研修を受けるように努めること。』

以前は卒業後、インターンという研修期間が義務づけられていましたが、今は義務ではなく努力目標です。「研修医」は義務ではないのです。大学を卒業して、国家試験に合格すれば、誰でも「医師」。明日から開業しても法律的には問題はありません。たとえ経験が全くなくても。法律は変わらないのにH16から2年間の研修が全医師に義務づけられ、医学部は実質8年になりました。

『第17条 医師でないものは医業を開業してはいけない。』

つまり医業は医師の独占業務。医師の資格がなければ医者の仕事はできないってことです。エステサロンでエステティシャンが皮膚の処置をしたり、ということは、医師法違反になるわけです。

『第18条 医師でなければ医師の名称を用いてはならない。』

つまり、医者でもないのに「なんとかドクター」とか、こういうのはだめってことです。カイロプラクティックの整体師がドクターと名乗ったりすることもありますが、こういうのは医師法違反なんですね。

さて、法律が定める「お医者さん」というものが、おわかりいただけたでしょうか?犯罪者でも医者になれる可能性がある。研修しなくても開業できる。さらに業務や名称の独占が許可されているということがわかりました。すごい職業です。それでは、医師の義務はどのように定められているのでしょうか?

『第19条 医師の義務』
(1)診療に従事する医師は、(正当な事由がなければ)診療治療を拒んではならない。
(2)診療・検案・出産に立ち会った医師は、(正当な事由がなければ)診断書・検案
書・出産証明書などを交付しなければならない。

なんだか当たり前ですね。疲れてるから明日にして、とかっていうのはもちろんだめ。汚いオヤジは嫌いだから診たくないっていうのもだめ。お金払ってもらえないかもしれないから診ないっていうものダメなんですね。「診てくれ」といわれたら、素直に「わかった」と言いなさい、と法律は定めています。

『第20条 無診察治療の禁止』

診察もしないで薬出したりしたらだめですよ、ってことですね。この点については、患者さんも理解していないといけません。「3ヶ月前に出してもらった抗生物質、またちょうだい」って言っても、やっぱり診察しないと薬は出せないのです。
高血圧や糖尿病などの慢性疾患で、何年もずっと飲み続けてる薬は別ですが、新しい症状や、病状が変化している可能性がある場合には医師の診察がないと薬は出せません。

『第23条 療養方法などの指導義務』

診療したときには、患者本人、あるいは家族に必要事項の指導をすること、と法律は定めています。お医者さんがわかりやすく説明してくれない、っていうのは、実は医師法違反
という重大な罪なんですね。自分の健康状態、病状についてわかりやすく説明を受けること。これは患者の権利、医師の義務。しっかり主張しないといけません。

ちなみに、リスボン宣言にあった患者の秘密を守ることについては、医師法ではなく刑法に「守秘義務」として定められています。つまり、患者の秘密をばらした医師は刑法違反ということで、刑事罰に問われることになるのです。刑事訴訟法では、本人が承諾しない限り、(たとえ相手が警察・検察でも)秘密の押収を拒むこともできるとされています。個人情報保護法という名の個人蔑視法ができたので、医療機関は訴訟にビクビクしてます。何しろ待合室で「○○さんおつぎにお入りください」と言ってはいけないのですから。

医師の義務・患者の権利については、ジュネーブ宣言やリスボン宣言の理念には遠く及ばないものの、一応、日本の法律でもある程度を規定しているということがわかります。
医師の側がこんなことを言うのは変ですが、もしあなたのまわりに法律を守っていないお医者さんがいたら、これからは正々堂々と、「先生、あなたの態度は医師法第23条に違反してます!」と鋭く指摘してあげてください。

ただし、このことであなたの主治医との仲が気まずくなっても一切責任は負えませんのであしからず・・・・・・・<------これだって書いておかないと私が訴えられるかも(笑)


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